Interviews 
山本 海 (Umi Yamamoto)
Kyulux North America Inc. Computational R&D Group マネージャー
AI/MIの魅力ってどんなところ? Kyuluxが創る材料開発の未来

山本海さんは2023年11月にKyuluxに入社、CTO付のAI/MI技術アドバイザーとして勤務後、2024年6月より株式会社Kyuluxの子会社であるKyulux North America, Inc.(以下KNA)でComputational R&Dグループのマネージャーとして米国・ボストンで勤務しています。

Kyuluxは、福岡県内でも珍しい大学発ベンチャーで有機EL発光材料の技術・材料開発を行う会社ですが、Kyuluxのどこに惹かれましたか?入社を決めた理由を教えてください

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)を極められると思ったからです。材料開発にAIを活用する取り組み(いわゆる「MI」)自体はいまやコモディティ化しましたが、MIの成果が既存事業の改善のヒントに留まることも多いだろうと思います。これは当然素晴らしいことですが、MIにはより大きなポテンシャル、具体的には「新しい」「大きな」事業を創り出す力があると私は信じています。Kyuluxは、Harvard発の技術を礎に2016年からMIに取り組んできたデータ、技術、文化を武器に、今まさに「新しい」「大きな」事業を創出しようとしています。この佳境に挑んでこそ、MIの真のポテンシャルを証明できると思いました。

実際に入社した後の印象はいかがでしょうか。

何よりまず、実験データと計算データの両方が多数蓄積されていることに感動しました。この「両方」というのがポイントで、実験データだけを学んだAIは、過去の説明は得意ですが未来予測は苦手です。一方で計算データだけを学んだAIは、理想論になりがちで現実とは合いません。ここにいち早く着目してきたKyuluxのデータには、他では追随出来ない強みがあると実感しました。

次に驚いたのは、これらのデータから生まれたAI技術のレベル、端的に言えば物性予測精度の高さです。そして、精度に対する要求の高さにも驚きました(笑)。MI専門家からすると頭が痛いのですが、効果がある、改善してもらえるという期待があるからこそ、意見も上がるのだと思います。

こうした文化も素晴らしいですし、MI、あるいはそれを包含した「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の地盤が確立されていることも衝撃的でした。Kyumatic™が業務システムとして定着していて、データを一元管理し、活用することに疑問すら持っていない。Kyuluxの人は、言うなればMI(DX)のネイティブです。MIを極める場所としても、材料メーカーとしても、抜きん出たアドバンテージがあると確信しました。

ボストン、KNAオフィスがあるビル

ハードルが高すぎることはないでしょうか?

Kyuluxの目標はGlobal Companyですから、MIでも世界トップを目指して然るべきだと思います。極めに来た私としても「そうこなくっちゃ!」という気持ちです。

とても興味深いですね。どういうところが「楽しい」ですか?実際に活躍されている研究者についても教えてください。

現場のデータと突き合わせてMIを高められるところが、何より楽しいです。多くのAI技術は公開データベース(DB)を用いて開発されるのですが、お客さんの求める機能に関するデータ、例えばPLQY(Photo-Luminescence Quantum Yield)は、公開DBにはあまり収録されていません。その点、Kyuluxは自社で材料開発を行なっているので、お客さんが本当に欲しいデータを集め、それに特化したAIを開発することが出来ます。材料開発とAI開発とを両輪で行う、Kyuluxならではの楽しさですね。

また、スゴ腕の実験メンバーとの連携も魅力的です。MIをやっていると、「AIから提案はされたけど、そんな材料は作れない」ということが度々あるのですが、Kyuluxの実験メンバーは、ヘンテコな分子でも実際に合成してしまうので、もちろん難しいものもありますが、こうした「ものづくり」のノウハウによって、DBの価値が日に日に高まっていることを肌で感じます。

あとはやはり、MI・AIを突き詰める楽しさです。システム面では、USスタンダードのMLOps(Machine Learning Operations)を間近で見られるのが刺激的ですね。またサイエンス面では、アメリカのPh.Dたちとバチバチやりながら、基礎科学に踏み込んで研究できるのが魅力的です。

「基礎科学に踏み込」むというのは、どういう意味でしょうか?

AIやMIというと、理屈のわからないブラックボックスという印象があるかもしれませんが、Kyuluxでは少し異なります。基礎科学に基づいて、独自の特徴量やアルゴリズムを開発しています。Kyuluxはベンチャー企業であり、投資に対する成果が求められるからこそ、材料が従うべき普遍的ルール、すなわち基礎科学を根拠として技術開発を行なっています。

海さんのKNAでの役割を教えてください。

大きく言えば、Kyuluxの事業を成功に導くことと、さらなる事業拡大に向けた技術基盤を確立させることです。そのためには、有機EL材料で「無敵」と言えるDBやA I技術を開発する一方で、それらを他の事業に展開するための拡張性を考慮する必要があります。そこで論文等から最新技術動向を把握し、有機ELに特化した技術開発をリードするだけではなく、有機ELと他材料との接点となる技術アセットを取り込むようにしています。詳しくは触れませんが、最近で言うとMD(Molecular Dynamics)シミュレーションがその一例です。

高い専門性が必要だと思いますが、かなり大変そうですね!

大変ですが、最先端にいることを感じられて充実しています。幅広い材料分野での研究経験が活かせるのも良かったです。

夕陽を見ながらクラフトビールを楽しむ🍻最高ですね!

海さんがKyuluxで成し遂げたい事はありますか?

日本の、そして世界の材料開発の未来像(ロールモデル)になることです。日本をはじめとした先進諸国において、少子高齢化が進むことは既に決まっている未来です。例えば日本の生産年齢人口は、2050年には現在の半分近くにまで減少すると言われています。そのような状況のなかで従来のように属人的な方法で開発を行なっていては、新たなイノベーションを起こすことは難しくなります。材料分野において、MIが不可欠の存在になっていくことは必然です。成功パターンはまだ不確かですが、だからこそ最先端を走る材料ベンチャー、Kyuluxが道を切り拓かなくてはなりません。Kyuluxならそれができるし、成さないわけにはいかない。いわば社会的使命だと考えます。いつかそれを成し遂げた未来で、世の中がより良くなり、Kyuluxに関わった全ての人が「やってよかった」と思えることを望みます。

最後に、Kyuluxで働きたいと思っている方(読者の皆さんに)熱いメッセージをお願いします!

Kyulux、面白いですよ! MI・ものづくり双方における蓄積を武器に、会社の命運を賭けてMIをやっています。この佳境にチャレンジできるのは、今だけです。私たちはその道を全力で進んで、必ずや成功します。MIの、理論の価値を信じている方。材料を、自然科学を愛してやまない方。本気のMIに飢えている方。基礎科学をやってきたのに、発揮しきれていないと思う方。様々なお気持ちがあるかと思いますが、アツさを感じたなら是非ご一報ください。大変ですけど、私たちと一緒に材料開発の未来を創っていきましょう。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

🍻休日はクラフトビールを飲んだり作ったりしています。材料開発の未来の次は、美味しいビールを創りたいです